チチハル収容所 十一句

蚤(のみ)跳んで 背中の痒ゆき 収容所

チチハルの 真夏の馬糞 ぶつけられ

雁をさす 腕章かなし 俘虜(ふりょ)と文字

月が出て 死んでも胸に 俘虜の文字

生きて俘虜 冬の野原に 並べられ

友の死を 満語で告げて 悴(かじ)かみぬ

無雑作に 屍体が積まれては凍り

蝿憎し 屍体にふたつ 耳の穴

子を焼いて しまえばほっと 冬の星

子を焼きし 羊草(やんそう)代は 借りしまま

オンドルの けぶたし満語ばかりの中

 

★ ようやくたどりついたチチハルの収容所では、発疹チブス、天然痘、再起熱などの伝染病が続発し、身近にいた人たちが次々に死んでいきました。

 

ホームへ

「望郷」目次へ

次ページへ