1988年にスタートしたOVAシリーズ「吸血姫美夕」の完全収録版。
全4話が収録され収録時間は110分であるが、価格は¥5800と非常に安価である。
ただDVDのアニメソフトにしては珍しく、設定資料などの特典は収められていない。
TVシリーズとOVAシリーズの最も違うところと言えば、ラヴァの位置付けであると思う。
“お友達”。
TVシリーズでは、美夕はラヴァのことをそう言っている。
そしてその言葉通り、美夕とラヴァは仲間としての印象が強い。
しかしOVAシリーズでは、使い魔や下僕としての印象を受ける。
美夕の意志を受け、美夕の言うとおりに行動する。
ただそれだけしか行動していないのならば、まさしく使い魔そのものであると言える。
しかし、それは単にOVAのラヴァが無口であるからなのかも知れない。
なぜなら、OVAの美夕もラヴァのことを“お友達”と言っているからである。
OVAの美夕は常に苦悩の中にいる。
2話の「操の宴」で、愛し合う神魔と人間という現実を見たとき。
美夕は、そんなことは認めない、とばかりに神魔を葬っている。
この時の美夕の表情は苦悩に満ちている。
その様は、かつて自分がそうであり成就することができなかったようでもある。
だからこそ美夕は自分に近い存在であるラヴァを求めたのかも知れない。
そしてラヴァと離れてしまうことを何より恐れたのかも知れない。
3話の「脆き鎧」では、美夕のラヴァに対する思いが単なる使い魔に対する感情ではないことを裏付けている。
ラヴァは神魔レムレスに封印され、仮面だけを残して消えてしまう。
この時も美夕は別段、冷静さを失ったりしているわけではない。
しかしレムレスに対する美夕の怒りは半端なものではない。
まるで自分の一番大切なものを傷つけられたかのようである。
そして、封印から解かれたラヴァを見たときの美夕の表情は、OVAシリーズを通して最高の笑顔であった。
一見してどのように見えようと、やはりラヴァは美夕の単なる使い魔ではなく“お友達”なのである。
4話の「凍える刻」では美夕の過去が描かれている。
美夕が13歳になり、少しずつ狂い始める現実。
ヴァンパイアとしての宿命から逃れられず、友人の血を飲み、そして自己嫌悪に陥る美夕。
飲みたくなんかないと理性が訴えてものどの渇きを押さえられず、ついには母親の血さえ吸ってしまう。
美夕は、他の誰よりも母を愛していた。
そして母もまた、美夕のことを誰よりも愛していた。
そんな母の血を我知らず吸ってしまったとき、美夕の苦悩は最大限に達する。
誰よりも血を吸うことを嫌うヴァンパイア。
この時の美夕はまさにそうであった。
全4話のOVAシリーズが終わっても、何かが完結したということはない。
受け取り方によっては、消化不良のまま終わってしまったように思える。
しかし終わらない物語は、美夕の宿命も終わらないことを暗示している。
いつまでも戦い続けることを示しているのである。
この作品に登場する一三子(ひみこ)は、脇役として非常にいい位置にいる。
変に出しゃばってしまうわけでもなく、しかし活躍の場もしっかり用意してある。
タクシー代も節約するようなただの金のない霊媒師かと思いきや、4話までの全話に登場している。
特に4話では、一三子の子供時代まで描かれている。
美夕やラヴァに比べると大した力を持っているわけではない。
神魔に対して何かをする、ということも少ない。
しかし何かにつけては登場している。
一三子は実に奇妙な脇役と言えるのかも知れない。
OVAシリーズでのラヴァのセリフは、第3話にしかない。
したがって、スタッフロールにラヴァの名前が出てくるのは3話だけなのだが、この時彼の名前は“ラヴァ”ではなく“ラバァ”となっている。
しかし、ケースの裏側には“ラヴァ”と書かれているので、ここでも“ラヴァ”としておく。