開拓地 十二句

 

解氷期 野原動くや 豚生まる

放牧や 桔梗(ききょう)芍薬(しゃくやく) いっせいに

萌ゆる野を 駈けて馬の背 高かりき

牛連れて 曠野は五月 種付けに

地平線 たてがみ振って 耕やせり

麦熟れて 東西南北 地平線

収穫期 ランプの下で 麵麭(パン)捏ねて

風選や 叩きて固き 豆の出来

麦出荷 日本語満語朝鮮語

餅を搗く さざめき苦力(クーリー)も姑娘(クーニャン)も

興安嶺(こうあんれい) たちまち暮れて 野火走る

こぼれ餌(え)の 芽吹くや 鶏と馬と棲み

 

 昭和十八年四月のことです。

 五族協和を果し、王土楽土を満州の地に築くという戦争中の国策に副うべく、大陸の花嫁に応募しました。

 そして、義勇隊員と結婚し、満州の北の果て竜江省に入植したのです。

 曠漠(こうばく)たる原野に荒れ狂う興安嵐、泥を固めて作ったような宿舎、電灯もなくランプのあかりだけがたよりの生活、土に穴を歩って二枚の板を渡しただけの便所など、予期もしていなかったきびしい生活でした。

 しかし、五月ともなれば農耕が始まり、馴れない大陸式農法ながら、一生懸命頑張りました。将来は一世帯に二十ヘクタールの耕地が与えられるということだけに希望をつないで・・・・。

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